無言の統率力
観客席からも大きな拍手が巻き起こった。言葉はない。報道陣からの「楽しかった?」との問いかけに大きくうなずいただけ。それだけのシーンがいかにも“らしい”。男は黙って…というフレーズがあった。彼は寡黙である。ただマウンドで躍動し自らを表現する。存在するだけで組織がひとつになる。無言の統率力があった。
もう14年も前-。1995年、彼は夢をかなえるため渡米した。自由契約でなく任意引退扱い。やや強引な手法で、当初は“おきて破り”と日本中を敵に回したが、彼は黙々と表現した。米国で独特な“トルネード投法”が勝利に結びついてブレーク。移籍経緯はいつの間にか消え、賞賛の嵐があった。日米間のルールが不明瞭であったが、日本人選手がメジャーを目指す大きなきっかけを作ったことは事実である。
パイオニア。大辞泉によると「他に先駆けて物事を始める人。先駆者、開拓者」とある。彼のチャレンジ精神は米国の魂である西部開拓精神にも通じる。米国歌にある最後のフレーズ…。O’er the land of the free and the home of the brave(自由なる大地、勇者の故郷へ)。勇猛果敢に新天地へ懸ける彼の姿が受けた。
当時メジャーは危機的状況だった。前年94年、労使紛争でストライキが起きた。高騰する選手の年俸、ファンの野球離れ…。だが、彼のスタイルがファンをグラウンドへ戻した。「野茂はメジャーを救った」。当時、ドジャースのラソーダ監督や多くの選手が、こんなコメントを残していた。08年メジャーの売り上げは過去最高の約65億ドル(約5850億円)。繁栄の陰に、ベクトルを変えた彼の実績があったはずだ。
昨年7月17日、通信社を通じて「プロ野球選手としてお客さんに見せるパフォーマンスは出せないと思う」と引退コメントを発表した。メジャー7球団で通算123勝109敗。日米通算17年間で201勝…。
日本に戻ったいま、肉声がほとんど聞かれないが、“存在感”だけで十分に影響を与えている。こんな男がいてもいい。(編集委員)
産経ニュース
もの凄い存在感ですよねぇ
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